ケニアでは教育制度の改革が進行中

将来なりたい職業は?–「先生」と答える小学5年生
ケニアでは2017年から教育制度の改革が進行中です。支援先レポートVol.48(2025年5月)でも紹介したとおり、従来の初等教育8年・中等教育4年・高等教育4年の「8-4-4制」から、初等前教育2年・初等教育6年・前期中等教育3年・後期中等教育3年・高等教育3年以上の「2-6-3-3-3制」への移行が始まっています。この新制度は、従来の知識偏重・暗記型の学習から、個々の能力を育む学習を重視する「コンピテンシー・ベース教育課程(CBC)」への転換を目指しています。
一方で、小学校6年生までは留年をさせず全員を進級させる方針がとられており、理解が不十分なまま学年を上がる生徒が増加。結果として、学級全体の学力低下や教員の負担増が懸念されています。
2025年6月にケニアの支援先を訪問し、現場の先生方から、こうした改革が生徒・教員・学校運営に与えている影響について伺いました。
先生方へのインタビュー
Dr.Williams School Alfred先生(左)、Samuel校長先生(中)、Uya School Raymond先生(右)
──CBCについて、どのように感じていらっしゃいますか?
(Alfred先生)
旧制度はテスト中心で、知識をただ詰め込む教育でした。CBCでは、子どもたちが実際に体験しながら学ぶことが大切にされています。たとえば先週、5年生は「フライドポテト作り」に挑戦しました。じゃがいもを切り、油で揚げ、最後まで自分たちで調理したんです。こうした実習を通じて、子どもたちは楽しみながら学ぶだけでなく、将来にも役立つスキルを自然と身につけていきます。
──CBCの新しい科目のひとつに情報通信技術(ICT)がありますね。どのように取り組んでいますか?
(Alfred先生)
授業は行っていますが、環境は十分とはいえません。ノートパソコンは3台ありますが、そのうち1台は壊れていて実際に使えるのは2台だけです。本来なら40台ほど必要ですので、生徒を近所の施設に連れて行き、そこにあるデスクトップを借りて授業を行うこともあります。
──学業以外の面で、CBCの特徴を感じることはありますか?
(校長先生)
CBCは学力だけでなく、子どもの個性や才能にも光を当てています。この学校には、郡大会に出場するほどのサッカーの実力を持つ生徒がいて、すでに高校からスカウトも来ています。進路の選択肢が大きく広がっているのです。こうした多様な才能を認め、伸ばしていけるのがCBCの良さだと思います。
──親と一緒に暮らしていない子も多いと伺いました。学校ではどのように支えていますか?
(校長先生)
親と離れて暮らす生徒も少なくありません。しかし、ほとんどの教師が「生徒指導・カウンセリングの研修」を受けています。そのため、家庭で親の支えを受けにくい生徒も、学校では教師から『親のような温かい支え』を受けられるようになっています。
──教師として、新制度に準拠して教えることの大変さはありますか?
(校長先生)
以前の制度に比べると、負担は確かに大きいです。授業準備やフォローアップに時間がかかり、決して容易ではありません。それでもなお、生徒一人ひとりの成長を身近に感じられるのは大きな喜びです。CBCの教育は、教師にとっても挑戦であり、同時に大きなやりがいにつながっています。
──新制度への移行はスムーズに行われましたか?
(Raymond先生)
いいえ、決してスムーズではありませんでした。さまざまな課題がありました。たとえば、小学校を担当していた教師の中には、中等学校で必要な専門教科を教えられない人もいました。そのため、政府は新たに専門資格を持つ教師を配置する必要がありました。
──小学校レベルでは新制度への移行が完了しましたが、どのような課題がありますか?
(Raymond先生)
旧制度では、試験の成績が悪いと進級できませんでした。現制度でも3年生・6年生・9年生には全国統一試験があり、進級には成績が問われますが、実際には全員が進級します。理解が十分でない生徒も次の学年に進むため、教員はその子たちのフォローに時間を割かざるを得ません。その結果、授業の進行にも影響が出ています。
──中学を卒業したあとは、どのような道がありますか?
(Raymond先生)
CBCでは、生徒一人ひとりの希望や適性に応じた「パスウェイ」制度が整えられつつあります。子ども自身が「何をやりたいのか」という希望を重視し、 STEM(科学・技術・工学・数学) の進路へ進む子もいれば、社会科学 に進む子ども、あるいは スポーツに特化した学校に進む子どももいます。また、高校に進学できない生徒は、自分で選んで職業訓練校(ポリテクニック)に進むことで、建築などの技術を学ぶことができます。
卒業生インタビュー
未来を拓く二人 ― バーナード君とサミュエル君
バーナード君は7人家族の長男で、お父さんは漁師、お母さんは魚の処理などの仕事で生計を立てています。2022年にお宅を訪問した際、成績優秀な彼が高校に合格しても学費を払えない状況に、お母さんは将来をとても心配していました。しかしその後バーナード君は奨学金を獲得し、地元の名門校であるムビタ高校に進学することができました。
バーナード君は、将来はエンジニアや政治家になる夢を持ち、母国の課題を改善したいという強い意志を語ってくれました。また、日本の進んだ技術に魅力を感じ、日本の大学で学びたいとも希望しています。彼は後輩たちに対して、給食という機会を最大限に活かし、目標に向かって努力し続けてほしいと期待しています。そして、プログラムの支援者に対して、教育と生活の質を向上させてくれていることへの感謝の気持ちも述べました。
サミュエル君は、バーナード君の2年後輩で、同じく奨学金でムビタ高校に進学しました。現在は両親とは別に、父方のおじさんと暮らしています。奨学金を得たことを伝えた際、おじさんはとても喜び、「努力が実を結んだな」と励ましてくれたそうです。そして、「家族や社会を変えられるのはあなた自身だ」とサミュエル君に語り、彼は自分の「勇気」と「努力家であること」に誇りを持っています。
サミュエル君の好きな科目は生物で、将来は医師を目指しています。生物の授業が好きな理由について、「人間の体について学べるため、医師になる道に直結しているから」と話してくれました。また、今の自分のように恵まれない子どもたちを支援したいという思いも持っています。

バーナード君(右)とサミュエル君(左)
TFT事務局より
支援先レポートNo.48
※印刷してポスターとしてご掲示いただけます