支援先レポートVol.43を公開しました

支援先レポートVol.43 / Sep. 2023

学校給食が育む幸せ「一緒に食べるとおいしいね」フィリピン カステリヤホス

フィリピン ルソン島西部のカステリヤホスのバライバイ小学校での給食プログラムは9年目を迎えました。2023年は、栄養失調と診断された約120名の生徒に学校給食を提供しています。
フィリピンではパンデミックの影響による休校が2年間と長期にわたり、子どもたちは先生や友だちと一緒に過ごし、学ぶ機会を失ってしまいました。学校再開によって、友だちと食を共にする時間が戻ってきました。 おかわりをする子どもたちの姿もみられ、給食の時間は楽しくにぎやかな声が聞こえてきます。

職を確保する難しさ

バライバイ定住地区は、1991年ピナツボ火山噴火の被災者の移住先として、政府に選定された場所です。30年たった現在は、自然災害の影響から回復しているものの、失業率も高く、安定した職への定着が難しいことにより、貧困の問題から抜け出せない状況が続いています。2022年にバライバイ小学校に入学した生徒の保護者(691名)を対象としたアンケートでは、8割以上の家庭が貧困ライン12,082ペソ(5人家族の月収)を下回っていました。

バライバイに暮らすダニエルさんのご自宅を訪問しました。配偶者が学校関連の仕事をしており、ダニエルさんが日中、家事を担っています。働いていた近隣の造船所の倒産に伴い職を失ってからは、中東へ出稼ぎに行ったり、トライシクル*のドライバーとして働いていたりしたそうです。しかし子どものけがの治療費に充てるため、トライシクルを売却して以降、仕事がない状況が続いています。

*バイクの横にお客さんが乗る荷台がついている三輪車。近距離タクシーのように活用されています。

生活必需品の高騰による影響

経済成長の著しいフィリピンですが、所得向上以上のペースで生活必需品の値上がりが続いています。日給のおよそ半分が食費という家庭も少なくありません。朝食等で好まれるたまごは、1つ9ペソ(約22円、23年3月換算)。2019年と比較すると1.4~2倍近く価格が上がっています。その中で、米の値段はほぼ変わっていません。ある家庭では、4~5人家族で、1か月に50㎏のお米を消費するそうです。安価でお腹を満たしてくれるご飯が好まれる一方で、糖尿病のリスクが高くなるという懸念もあります。 また、フィリピンは「メリエンダ」と呼ばれる間食をとることが日常化しています。安価なスナック菓子やジュースには、糖分が多く含まれており、子どもたちの健康への影響が懸念されています。

先生と保護者が一丸となって取り組む
健康改善へのアプローチ

給食支援を受けている子どもの保護者を対象に、年間数回「栄養講座」を開催しています。「お菓子に含まれる砂糖の量は?」というテーマでは、子どもたちがよく食べるお菓子に含まれる砂糖の量をコップに入れ、その量を可視化しました。砂糖が多いことのリスクとして「病気になりやすい」「虫歯になる」といった発言が保護者から出ました。

チームで「どんな食事を摂るとよいか」をディスカッションした際には、「三大栄養素をとる」「食事時間を決めて、いつも同じくらいの時間に食べる」「野菜やフルーツを中心とした食事にする」といった意見がありました。家庭での食事が大切であるという意識が、保護者の中に育まれていることを感じます。給食支援を受けている子どもたちも「野菜を食べる」「バランスの良い食事をとる」など、食事の大切さがしっかりと根付いています。

毎日の学校給食の調理や配膳、片付けは、給食支援を受けている子どもの保護者たちが、当番制で担当をしています。5人1チームで、1週間ごとに交代します。調理を担当する保護者たちは、「ご飯のレパートリーが増える」、「みんなで調理することが楽しい」と、前向きに取り組んでいます。

給食で使う野菜の一部は、学校菜園で育てています。休校が長く続いたため、学校給食再開と共に、野菜作りも一から再スタートしました。日本と比べると野菜は全体的に小ぶりで、葉物野菜が育ちにくい環境ですが、農業が得意な保護者が中心となって、畑や周辺環境を整えたり、収穫量を増やすための工夫を重ねています。

  • 朝6時頃~調理がスタートします。片付け、清掃をして13時頃に終了します。

  • セメントで階段づくりをしている保護者。環境を整えるのも保護者が担っています。

使われていない教室を暗室にして
キノコ栽培を始めました

自走化に向けた新しい取組み

TFT事務局より

支援先レポートNo.43
※印刷してポスターとしてご掲示いただけます

フィリピンでは、新型コロナウイルスの感染対策として続けられてきた学校での対面授業の制限が、2022年8月におよそ2年ぶりに解除され、子どもたちが登校する姿が戻りました。コロナ禍前にはまさか無くなるとは思いもよらなかった日常、学校に登校して勉強できること、お友達と会って遊べること、笑いながら給食を食べられることなどが、今後もずっと続くことを切に願います。
長引くコロナ禍に加えて、世界的な気候変動や紛争により、食料価格や生活必需品が高騰しています。バライバイ小学校の保護者の8割が貧困ラインと言われる収入を下回っていますが、そのような貧困ラインの家庭では、どうしても「安くてたくさん食べられる」を基準に、食料を選択してしまいがちです。「メリエンダ」という間食の中で、スナック菓子や甘いジュースを取る習慣もあり、「野菜をとる」「バランスよく食べる」という意識を持つことはとても重要です。まず大人たちが栄養講座によって知識をつけて、自分や子どもたち、家族の栄養改善をし、将来の健康につながる食事をしてほしいと思います。

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