支援先レポートVol.42を公開しました

支援先レポートVol.42 / May 2023

お粥がもたらす地域開発タンザニア ザンジバル

TFTはタンザニア、ザンジバル諸島の貧困層が多い地域の小学校36校で給食を支援しています。主に豆とソルガムのお粥とサツマイモが提供されています。給食の食材は地元農家から購入します。学校に納入することで、農家は安定した収入を得られるようになりました。生徒の保護者が、農家として食材を納入しているケースもあります。給食をきっかけに出席率や成績が向上。さらに世帯収入を底上げすることができました。ザンジバル政府教育省は、地域全体の学校給食戦略の立案を進めており、給食制度をより多くの学校で実施することを目指しています。

栄養価に優れたソルガム(キビ)のお粥

近年、日本でも雑穀の栄養価の高さや健康への効果が見直されていますが、キビやヒエは東アフリカの人々の日常の食事に欠かせない食品です。ザンジバルの小学校で提供されているお粥は、豆とソルガムと呼ばれるキビを粉末にし、砂糖で味付けをしたものです。ソルガムは紀元前から栽培されていたとされるアフリカ原産の大粒の穀物で、乾燥地帯ややせた土地でも育ちます。ポリフェノール、カリウム、リン、ビタミンBが豊富で、実を粉にして主食として食べられているだけでなく、ビールの原料にも利用されています。「モロコシ」「コーリャン」とも呼ばれ、歯ごたえがあるため、ベジタリアンやヴィーガンのための肉の代用品として利用されることもあります。

ソルガムキビ(右)とカウピーと呼ばれる豆(左)を粉末にしたものがお粥の原料

サツマイモ栽培の広がり

給食にはお粥と一緒にサツマイモを提供しています。給食プログラムが始まるまで、ザンジバルではサツマイモはあまり栽培されておらず、商品価値も高くありませんでした。農業省が農家に対して栽培に関する研修を行い、学校給食のために栽培する農家が増えました。今では15以上の農家グループがサツマイモを栽培し、学校のみならずホテルにも出荷しています。学校給食という市場ができたことでメンバーの収入が安定し、中には草ぶき屋根の家から石造りの家を建て替えることができた例もあります。学校を中退した若者が収入源を確保できたことで学校に戻るなど、人々の生活に好影響を与えています。

農家グループが商品化したサツマイモと雑穀のお粥のもと。ケニアの農産物品評会にも出店した。

給食プログラムを支える人々

給食プログラムの中心となるのは各学校の給食委員会で、調理場の建設や調理器具の購入、調理担当者の分担などを決めます。ウペンジャ小学校では10名の献身的な保護者が、2年以上にわたり毎日調理を担当しています。ウコンゴロニやムワチャラレ小学校では、保護者が交代で調理をします。調理担当者は朝早く学校に到着し、まずは調理場や器具を清掃し、火をおこしてお湯を沸かします。そして学校の先生が計量した食材を受け取り調理します。お粥に使う豆やソルガムの製粉の仕方により食感や味が学校ごとに異なります。できたてのお粥は熱いので、特に小さな子供がやけどをしないように十分に冷ますのも調理担当者の大切な仕事です。

調理を担当するボランティアの保護者

タンザニア ザンジバル ウングジャ島の小学校

給食プログラムを実施している3つの小学校を訪問しました

  • MOVIE:ウコンゴロニ小学校のお粥は教室で各生徒に配られます
  • Ukongoroni School ウコンゴロニ小学校はウングジャ島のほぼ中心部南側に位置し、幼稚園児も含めて約250名が在籍しています。生徒の保護者の多くは農業か漁業で生計を立てています。ほとんどの生徒は朝ごはんを食べずに登校し、午前10時にお粥とサツマイモの給食を食べます。調理は保護者が持ち回りで分担しており、月に一度程度、調理担当日が割り当てられます。出来たてのお粥はとても熱いので、先生が教室まで運びます。ほんのり甘くて豆の粒々が残っているお粥は腹持ちも良く、子どもたちは夕食までひもじい思いをせずに過ごせます。

  • MOVIE:ウペンジャ小学校では生徒達は学年ごとに校庭でお粥を食べます
  • Upenja School ウペンジャ小学校はウングジャ島の北部に位置し、生徒の保護者の多くが農業や農産物の販売に従事していますが、中には観光関連の仕事に従事する保護者もいます。 長年この学校に勤務しているアリ校長先生は、給食プログラムが始まる以前は学校を休む生徒が多く、不登校になってしまう生徒も多かったと回想します。給食が始まってからは不登校の子どもがほとんどいなくなり、国家試験の成績も上がりました。

  • MOVIE:ムワチャラレ小学校 給食配膳の様子
  • Mwachalale School ムワチャラレ小学校はスワヒリ語で“Let him sleep”(彼を寝かせておきなさい)というユニークな名前の学校です。2006年に開校した比較的新しい学校で、300名ほどの生徒が通っています。2022年10月から給食プログラムが始まりました。給食に関する経験やノウハウがないため、調理担当の保護者のシフトの決め方などで試行錯誤をしています。給食が提供される前は、病気などを理由に欠席する生徒が多かったのですが、今は生徒に活気があり、欠席数が減っています。

TFT事務局より

支援先レポートNo.42
※印刷してポスターとしてご掲示いただけます

タンザニア・ザンジバルでは「Home Grown School Feeding Program」と呼ばれる、可能な限り地産の食材を用いて、地元のコミュニティーの農業生産と学校給食をリンクさせたプログラムに取り組んでいます。今回は、支援先の政府、学校、保護者、地元農家が一体となり、学校給食を提供している様子をお届けしました。政府担当者の給食プログラムにかける熱い想い、仕事と両立しながら給食運営する保護者、支える学校の先生、関わるすべての人が頼もしく、強く温かい想いで子どもたちを育んでいる姿に心打たれます。
私たちの理想は、TFTの支援が不要になること。2014年に支援を開始して以降、支援先の力強い連携が構築されつつあり、一歩ずつ自立に向けて歩みを進めていると感じています。子どもたちが学校に通えるようになり、飢餓や貧困削減の礎になっているのはこの上ない喜びです。自走が叶うその日を目指して、支援先の子どもたちとコミュニティーを応援し続けたいと思います。

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